2020/07/01 02:38
6月30日 くもりときどき晴れ
本日のBGM George Benson
値上げをしやがるというので、「今なら値上げ前の価格ですよ〜」という購買心理にあてられて長石をまとめ買いしました。
長石というのは釉薬の原料で、焼いたら透明なガラスになる、大体どの釉薬にも入っているというもので、例えるならどの食品にも意外と入っている小麦粉みたいなやつです。そのほかで今回買ったのは酸化銅と合成土灰で、
庚申窯では粘土と、アジサイとか植物の灰の釉薬などは自分たちでつくりますが、こういうサイエンスっぽいものは材料屋さんから買って釉薬を作っています。でもこれらを自分で作る人もいて、
知り合いの陶芸家の人は長石を何トンも自宅に持っていて、それをでっかいミール(回転するドラムみたいなやつ。中に磁器製のボールが入っていて、まるでワニの胃石のように素材をすり潰すことができます)で24時間くらい回せば長石が綺麗に砕けるそうで、
あとは植物の灰を、長石6に対して灰4で混ぜて釉薬を作るそうです。はかる際にも重さではなくて、升ではかるそうです。昔ながらのやり方ですが、私もそんな感じでやりたいですね。
私がそのオールドスクールなスタイルをやれない理由は、長石の原石を持っていないってことと、庚申窯で人気な色は、天然の灰よりも合成土灰を使った方が綺麗に明るく色が出るということにあります。
やはり天然物の釉薬はオーガニックらしい落ち着いた雰囲気の、やや複雑な色になります。嫌な言い方をすればパッとしない地味な感じ。でも陶芸に詳しい人にはたまらないものがあると思います。リテラシーを要求される作品になりますかね。それと天然物なので狙い通りのものが出来にくいということもあります。
ところで材料屋さんの話ではコロナウイルスのおかげで 4月から陶芸の素材の動きも止まっているそうで、それというのも全国の陶器販売系のイベントが中止になってしまったため、窯元の方でもなかなか先行きが読めず、不用意に原料を仕入れられないというのが一つ、
もう一つの理由としては、陶芸教室などが中止になって、それ関係の仕入れも止まってるため、ということだそうです。
私は自宅でできる趣味として、個人での焼き物作りはむしろ盛んになっていそうな気がしていましたが現実はそうではないようで、やはり個人で窯を持っている人が少ないためでしょうか。まああんなもん家にあったら確実に配偶者の不興を買いますな。
材料屋さんから買う原料の値段は本当に市場原理に忠実でして、小刻みに変動します。正確に言うと小刻みに値上げするんですけど。
値上げの理由も、豊富にあった原料が底をついたり、輸入品だと現地でのコストが上がったり運搬費用が上がったりといった余波による必然的な値上げでして、基本的にこの先 材料価格は下がることはなく、現時点が一番安いから買い貯めた方がいいのですが、
庚申窯では長石5袋分が限界でしたね。個人経営だから5袋で結構持ちますからな。あと経済学的には現時点でのお金の価値は、未来でのお金の価値に比べて相対的に高くなるので、未来で買った方がいいのです。まあ値上げ幅の方がはるかに大きいんですけど、
素材にこだわる人は その色が1番!と思ったら同じものをトン単位で買い揃えたりします。同じ長石でも、何年の何月に取れたものを全部くれ!みたいに。採掘時期で品質が微妙に変わりますからね。
私としては出来るだけその辺は適当に行きたいと思っておりまして、素材に振り回されながら作りたいのですが それは大変不安定なやり方でもあります。「前の色の方が良かったなあ」なんてことはザラにありますし、どちらが儲かるのかと言われればコントロールをしっかりしてる方ですね。
まあでも自分に不向きなことを無理してやるのはストレスが溜まって、そのストレスを解消するためには 時間を使うか お金を使うかしなければならないので、それはそれで隠れたコストがあると思います。
でもどっちの方が職人のこだわりっぽく映えるかと言われれば、やっぱり素材にこだわって正確に作ってる方ですよね。そのタイプの人と話してる時は お小言をくらってるような状態になるのですが、正論は時として暴力と等しいものになりますので、暴力には屈しないぞ ということで意思を強く持っていきたいと思っております。ノーモア正論。
高鶴裕太 コウヅルユウタ
陶芸家
1991年生まれ
2013年横浜国立大学経済学部卒業
上野焼窯元 庚申窯3代目