2020/08/09 04:10
8月8日 くもりときどき晴れ
本日のBGM Flamingosis - A Groovy Thing
前回の続きで棚板に塗るアルミナについて。アルミナとは酸化アルミニウムの通称で、酸化アルミニウムの天然ものというのはルビーやサファイアであるということでしたが、ルビーとサファイアの色の違いはなんで起こるのかしら、
それはそれは酸化アルミニウムの結晶にクロムが混ざると赤くなってルビーに、鉄とチタンが混ざると青くなってサファイアとなるそうです。ちなみにクロムはベリルという鉱物に混ざるとエメラルドと呼ばれて、ベリルに鉄が入ったらアクアマリンとなるそうです。
いやーベースはほぼ一緒なのに、入り込んだ金属イオンによって色が変わるというのは面白いですね。それと同じようなことが釉薬でもバリバリ起こっていまして、例えばワラ白釉というワラ灰ベースの釉薬に、鉄を加えたら青っぽくなって、銅を加えたら緑っぽくなります。
そして緑にも赤にもなるクロムですが、焼き物でもクロムは使いまして、ルーシーリーのピンクの器なんかはクロムとスズで色を出しているんですけど、ルビーの発色がよくなるにはこのクロムが1%以内で混入している場合のみだそうで、5%を超えると灰色になって宝石としての価値はゼロになるそうです。
釉薬でも鉄とか銅とかの鉱物が色を出してくれるんですけど、だからと言って 鉱物をたくさん入れても 発色が良くなるとは限らないんですよね。バランスが大事ということですな。
そんなわけでこの棚板に、ものすごくミクロな視点で見ればルビーと同じものであるアルミナの粉末を塗っていきます。
これ↑がアルミナの袋ですね。釉薬はコバルトとか酸化銅とかの高いやつ以外は1俵単位で購入します。25キロ。
アルミナ自体はすごく安定した物質なので、陶芸で焼く程度の温度では何も変質しないサラサラした粉なんですけど、粉のままでは棚板に付着してくれないので、焼成したときに程よくアルミナを棚板にくっつけてくれるコーチング材ってのが半分くらい入っています。つなぎみたいなもんですね。
コーチングってコーティングのことなんですけど、昔の言い方のまま現代まで来たんでしょうか。創業110年ですもんね。明治のかほり。
そのアルミナを水にといて、水にとくのは均一に塗るためなんですけど、こちらも釉薬と同じですね。こういう粉もんたちは 一度水にとかないと対象にうまく吸着してくれないのです。
水に溶かしたアルミナを棚板に塗っていくわけですけど、釉薬の場合は素焼きの器が水をぐんぐん吸い込むので、粉たちがしっかりと張り付いてくれるのですが、この棚板たちは吸水性がほぼゼロなので、アルミナを塗ってもなかなか乾いてくれません。それで梅雨の時期にはできない作業だったのです。
まああんまりやりたくない作業だから梅雨を言い訳に作業を先延ばしにしていたという気持ちも少なからずありましたけど。ルーシーリーもこの作業めっちゃ嫌がってて、釉薬が流れないようなかけ方や焼き方を研究してたみたいですよ。気持ちは大いに分かりますね。でも釉薬は流れた時が綺麗になりますから 難しいところなのです。
高鶴裕太 コウヅルユウタ
陶芸家
1991年生まれ
2013年横浜国立大学経済学部卒業
上野焼窯元 庚申窯3代目