2020/08/27 07:09

8月26日 くもり

本日のBGM The Flying Elephants - She Loves You

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「ニューヨークからパリまで、あるいはその逆のコースを無着陸で飛んだ最初のものに賞金25,000ドルを与える」というオルティーグ賞が1919年に ニューヨークのホテル経営者レイモンド・オルティーグによって作られて、

腕に覚えのある有名な飛行機乗りたちが大西洋横断に挑戦しますが ことごとく失敗してしまいます。ここでの失敗は事故死や行方不明を意味しますが、中には確実に成功すると思い込んで シャンパンとか記者会見用のテーブルとか積んで 重過ぎて離陸できなかった なんて例もあります。

この時代の1ドルは現在の1ドルと比べると14倍くらいの価値になるっぽいのですが、このオルティーグ賞に挑戦した人たちというのは2人1組での挑戦者が多く、飛行機もエンジンが3つあって、その分機体も大型で っていうようなものだったので飛行機の製作費が10万ドルくらいしてて、完全に賞金をオーバーしております。


それはもともと金持ちだったのか、それとも飛行機乗りとして顔が売れてて うまいことスポンサーをつけることができたのか わかりませんが、お金目当てというよりは栄誉のため 歴史に名を残すため という目的が主だったようです。

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その点リンドバーグはほとんどお金がありませんでしたので、コストのかかる大型の飛行機は作れなくて、1人乗りで単発エンジンのスピリット オブ セントルイス号を約1万ドルで作ります。

そのお金はセントルイスの後援会の人たちが用立ててくれて、リンドバーグは当時無名の青年でしたので出資者も数人しか集まらず、それでも機体代を全額サポートしてもらったのですが、

映画の中で後援会の人たちに話を持ちかけた際に、最初はリンドバーグの飛行計画に対して懐疑的であったり、飛行機の製造にも介入しようとしたりしていましたが、

いざ出資が決まると「君のやりたいようにやってくれ」っつって全面バックアップしてくれて、むしろリンドバーグ本人よりもこの飛行計画にノリノリになって尻を叩き始めます。

飛行機が完成してすぐに、大西洋横断 最有力候補のフランス人2人組の飛行機乗りが 先にパリを飛び立ったことを知ったリンドバーグが もう飛ぶ意味がなくなってしまったのではないか と悩んでいるときも

「我々はオルティーグ賞の賞金が欲しくて出資したんじゃない。君の挑戦を美しいと思ったから出資したんだ。相手に先を越されたとしても君の挑戦は変わらず美しい。出資金の返却なんか気にするな。でも君がもう乗りたくないからと言って無理やり乗せるような奴は我々の中にはいない」的なことを言って励ましてくれます。

この辺の、挑戦者と それを支援してくれる出資者の関係というのは 今でもアメリカの基本的な精神として受け継がれていて、無名の青年の挑戦に対しても 等しくチャンスが与えられるのは アメリカのとても良い文化だと思います。

うがった見方をすれば、この映画の監督であるビリー ワイルダーが、映画作りの時にも こんな理想的なパトロンおらんかいな という思いも乗っかってるかもしれません。ファンタジーを作ってるハリウッドの現実は大変シビアなのです。


オルティーグ賞が賞金をくれるのは最初の人だけなのですが、栄誉も記録も名声も一番乗りの人しか相手にしてくれませんから、飛行機乗りたちは一刻でも早くフライトを成功させようと躍起になっていて、リンドバーグは 今やらなければ 明日にでも誰か飛んでしまうかもしれない、と急いで飛行機を作ってくれる工場を探します。


またしても続きます


高鶴裕太 コウヅルユウタ
陶芸家
1991年生まれ
2013年横浜国立大学経済学部卒業
上野焼窯元 庚申窯3代目