2020/09/08 07:13

本日のBGM Eric Clapton - Blues Before Sunrise

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前回は リンドバーグ 軽さにこだわった、リンドバーグ 前が見えない、リンドバーグ 手鏡をもらう、の3本立てでしたけど、その続きで、大西洋を横断した飛行機「スピリット オブ セントルイス号」のコックピットはこちら↓なのですが、これはまあー なかなか心躍らないコックピットですよね。

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ていうのも この飛行機の出るマックスのスピードが200キロちょいだからニューヨークからパリに着くまで1日半かかるわけで、そうすると朝飛び立っても大西洋のど真ん中に差し掛かるのは真夜中なわけで、

てことは真っ暗な海の上を この計器類に向かって一晩中 定かでない方角を信じて 進み続けるということになって、それは大変しんどい作業だと思います。夜中の海とかめっちゃ怖いですし。


NASAの宇宙飛行士のテストでも似たようなものがあるみたいで、狭くて真っ暗な部屋の中に一人きりで入れられて、その中で告げられた時間を自分で計って、時間がきたら出てきてね ってやつなんですけど、

これは宇宙船内でのストレス耐性を見るためのテストだそうですが、宇宙飛行士というのは全員抜群に頭が良くて、体もタフで、精神的にも強靭な人たちばかりですけど、このテストを正確な時間で終えることのできる人というのは かなり少ないそうで、ほとんどが早く出てきてしまうらしいです。

例えば2時間入ってろって言われても1時間くらいで出てきちゃったりとか、でも本人の感覚としては「もう何時間も中にいたけど全然ストップと言われないから出てきました」っていうように暗闇に一人きりでじっとしてなきゃいけないというのは 時間の感覚がものすごく間延びしてしまうみたいです。


リンドバーグの場合 窓からの風を感じることができたし、定期的にガソリンの残量を確認して、いくつかある燃料タンクを時間ごとに手動で切り替えたり、飛行機の高度が下がらないよう機体の操作をしてたので まだいくらかやることはある、って言ってもそれくらいで、

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真っ暗な海の上を一人きりで、自分が今どの辺にいるのか分からないし、本当に正しい方向に進めているのかも怪しい、でも帰還不能点はとっくに超えているから戻ることもできないので進み続けるしかない。

その上 エンジンが不調になったり 機体が故障したりして緊急事態になるかもしれない という危機感も持っていなきゃいけないので、そのような不安と緊張と退屈を同時に抱えるというのは ものすごく疲れることだと思います。

多分こういうのに耐えられる人の特性というのは、勇気とか自信とかそういうことではなくて、

どれだけ迷う状況でも それが正しいとされる行動を淡々とこなすことのできる人、あるいは 先天的に自分の行動選択が感情と切り離されてるような人でないと この手の状況に耐えることは できないのではないでしょうか。


映画の中で 真っ暗な海の上を飛んでいるときに 自分が正しい方向に進んでいるのか不安になったリンドバーグは「とりあえず朝が来るまで飛び続けよう。朝日が昇れば それが向かうべき方角(東)だ」と熱いセリフをかましてくれます。

そして夜中の飛行中、スピードメーターが正しく表示されていないことに気づいたリンドバーグは、今 機体が冷たい大気の中に飛び込んでしまって、飛行機が凍り付きはじめていることを知ります。


また続きます


高鶴裕太 コウヅルユウタ
陶芸家
1991年生まれ
2013年横浜国立大学経済学部卒業
上野焼窯元 庚申窯3代目