2021/05/13 00:33

本日のBGM Ghana Freedom - E.T. Mensah


だいぶ間が空いちゃったんですけど、ニューギニア島の山岳民族のしきたりから現代にも通じる健康について学ぼう的なお話です。

こちらがニューギニア島↓

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前回は「サツマイモばっか食ってるニューギニア高地人たちが なんでムキムキになるの? 」という 民族学者たちの長年の疑問に対して、彼らが持っている特殊な腸内細菌が タンパク源を作り出しているかもしれない、というのが今の所の予想であるわけですが、

タンパク質というのは成長過程において非常に重要な栄養素でして、乳児期にこれが不足するとクワシオルコルという病状が出ます。

乳児はタンパク質の元になっているアミノ酸を母乳から得ているわけですが、離乳食に移行した際に、その食事が炭水化物ばっかりでタンパク質が十分にない場合、クワシオルコルを発症することがあります。

クワシオルコルになると 体はガリガリなのに腹部だけが膨張して、足がむくみ、毛が細くなり 歯が抜けて、皮膚の色まで抜けてしまう といった症状が出て、仏教絵で見られる餓鬼のような見た目になります。

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前々回にニューギニア島の授乳期間は異常に長いということに触れましたが、クワシオルコルはガー語(ガーナの言葉)で1番目、2番目という意味で、最初の方に生まれた子供たち、を指します。

これは最初に生まれた子供から間もなく次の子供が生まれた時に、下の子供に授乳をして、上の子供を早くに乳離れさせてしまうことで、クワシオルコルが発症してしまうケースが多かったからだそうです。間を空けることは大事なのです。

つまりニューギニアの山岳社会では恒常的にタンパク質が不足している環境であり、乳児期の栄養は母体からの摂取に頼らなければクワシオルコルを発症してしまう危険性があったために授乳期間がきわめて長く、

授乳期間中に男が 子供や母体に近づくのを「双方にとって非常に有害である」というしきたりとして接触を禁じることで、次の子供が早くにできてしまうのを防いでいて、一見理不尽で非合理的なタブーに見えて 実は栄養価の乏しい環境で子供が無事に成長するためのしきたりだったのではないでしょうか。


さて現代では栄養価の高い食品が溢れていますが、タンパク質は筋肉を作る元にもなるということで筋骨ボディ志願者たちは こぞって高タンパクな食事、とりわけプロテインをたくさん摂取するわけですが、「過ぎたるは及ばざるが如し」ってことで、このプロテインの過剰摂取が近年では問題視されてきております。

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新☆国民病として糖尿病よりも注目を集めておりますのが「慢性腎臓病」でございまして、腎臓を悪くしたいと思ったら 塩分をいっぱいとったり 水をあんま飲まなかったりすると効果的なのですが、「タンパク質を取りすぎる」というのも腎臓に効率的にダメージを与えることができます☆

ていうのもタンパク質が分解されると尿素というものが出てきまして、この尿素は腎臓からしか排出できないので タンパク質が過剰になると腎臓の負担もぐいぐいに上がるわけですね。


でも過剰にならなければええやないの、食事の代わりにプロテイン飲むのはええんと違うの、と思いますが、なんでも通常の食事に含まれるタンパク質というのは非常に少ないそうで、厚生労働省がいうところの1日に必要なタンパク質の量は男性で50g、女性で40gだそうです。

一方で人間の体というのは運動しようがしまいが 筋肉とかのタンパク質は毎日作り替えられていて、1日あたり400gくらいのタンパク質が壊されて、同じく400gくらいのタンパク質が新たに作られるそうです。


ようようこいつあどうなってんでい、1日で400gも作るってんなら必要量が40だの50だの全然足りねいじゃねいかいっ、と思われますが これでいいんだそうで、

もし人間の体が400gのタンパク質を毎日外部から摂取しなければいけないとしたら、2、3日絶食しただけで死んでしまうので、そうならないように「アミノ酸プール」という機能が人間には備わっているのだそうです。

プール、つまりストックのことで、人間は血中や細胞の中、細胞外液とかにアミノ酸を常に貯蔵していて、その上 筋肉とかから分解したタンパク質はそのまま捨てずに また使える状態に戻して使う、要するに体内のタンパク質はリサイクルすることができるのだそうです。

なので元々体に取り込んでいるタンパク質が十分にあれば それをリサイクルして運営するので、恒常的にタンパク質を過剰摂取していると蓄積が進み、排出するタンパク質もどんどん増えてしまうため腎臓が疲弊して機能障害が起きてくる、ということですね。


このことから気になってくるのはニューギニア高地人が低タンパクな食事でムキムキになっているという事実ですが、てことは彼らは特殊な腸内細菌の他に、体内でのタンパク質のリサイクル率が非常に高いのかしら。

実際に1980年代に行われた調査では タンパク質を体に溜め込む体質や、体外へのタンパク質の排出が他の地域に比べて少ないことが報告されています。

筋肉肥大にはロマンを感じますし、私もボディビルダーの体を見るのはとても好きですが、そこには多分 犠牲にしているものの大きさや、何か求道者めいた趣を感じるために尊敬してしまうのかもしれません。彼らの腎臓を心配しつつも、ええぞもっとやれえ☆ と珍奇なもの見たさで筋肉文化がこれからさらに発展していっていけばいいなと思っております。

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次は精液の話に進むと思います。


高鶴裕太 コウヅルユウタ
陶芸家
1991年生まれ
2013年横浜国立大学経済学部卒業
上野焼窯元 庚申窯3代目