2021/07/24 23:31

本日のBGM Patti Drew - Workin' on a Groovy Thing


店先の石の段差から隣のちっちゃい庭に向かって蟻が行列を作っておりまして、どちらかが巣で どちらかには餌があるんでしょうけど、特に悪さもしないだろうってって放置しているのですが、

アリというと社会性昆虫の代表みたいな奴らで、それぞれの個体が役割を分割して 全体としてまるで一つの生命体のように振る舞っていることから「超個体」とか言われたりしています。

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つまりアリは単独では生きていけず、お互いに依存しあうことで生活が成り立っていると言えますが、よく観察してみるとアリたちのうちの2割は 働かずに遊んでいることがわかるんですって。

働きアリの法則とか言われたりしますが、この2割ってのは比率が大体決まっていて、アリの中から働かない2割のアリを取り除くと、残された8割のうち また2割のアリが働かなくなって、

一方で8割の働くアリを取り除いた場合でも、残された2割のうち 8割が今度は働くようになるって事で、「2割は働かない」というのがアリの超個体としての生体構造に組み込まれているようですね。


2割働かないってのを聞くと、遊んどらんと全員で働いた方がいっぱい儲けるやんけ!サボっとらんと働かんかい! とついつい恫喝してしまいそうですが、しかし長い目で見てみると 実はこの2割働いていないということが彼らにとって一番損をしない形になっているみたいです。

短期的に考えれば全てのアリが同時に働いている方が当然パフォーマンスは上がるのですが、長期的な条件を考えた時 パフォーマンスを邪魔するものが出てきまして主に「疲労」と「環境変化」の2つです。


働きアリにおいて2割働かないってのは実用的な面も十分にあって、疲れてきたから休んでいるってアリがその2割にカウントされるわけで、常に2割働かない事で全体に疲労を蓄積させずに済むという仕組みになっているというわけです。「休む」ことも役割分担の一つにしているようですね。

もし全員で頑張って全体に疲労が蓄積してしまったら流通が滞り出すので、人間社会でもそうだけど流通の滞りは経済を思いっきり停滞させますから、その場合2割働かないよりもよほどダメージが大きくなるというわけですな。流れはスムーズであるのに越したことはありまへん。


さて疲れたから休んでいるアリがいる一方で、まじで死ぬまで働かない働きアリもちゃんとおりまして、この働かないアリの役割としては社会構造の「遊び」と考えられます。

ここでいう遊びってのは「車のハンドルのあそび」とか「自転車のチェーンのあそび」とかそういう遊びですね。構造におけるゆとりとか余裕みたいな意味の遊びです。


組織構造に遊びがあると何がいいかっていうと環境変化において余力を持つことができるってことですね。

例えば株式投資なんかでいうと投資したお金はうまく運用すれば利益を持ってきてくれますから、持っている資産は少しでも多く投資した方が より多くの利益を得られますが、

でもある日突然 潰れるはずがないと思われていた会社が潰れて、金融恐慌みたいになった時に投資せずにとっておいた貯金とか、あるいは全く今まで利益を生んでこなかった投資先とかが新しい環境における命綱になってきます。

この命綱を持っておくことがアリ社会においての2割の働かないアリに当たるのではないでしょうか。もし働きアリたちが大量にいなくなったりした場合に、とりあえず例の2割に臨時でシフト入ってもらって、その間にやりくりを考えるとかね。


全てが役割を担って完全に連携して回っている構造というのは短期的には非常に優秀な一方で、長期的に見れば疲労の蓄積するスピードが早く、少しの変化でも大きく崩れかねない、生存戦略的に脆い設計と言えます。

一見 役に立たないと思える構成員を持つ組織の方が、かならずアクシデントが起こる長期的な環境において強度を持つということで、アリだって2割働かないんだから人間も2割、5人に1人くらい働かなくってもいいんじゃないかしら。

野田ちゃん(芸人)だって、今まで仕事も稼ぎも全然なくて親に散々叱言を言われてきたけど、中年になってから兄弟の中で一人だけ時間があるから今一番重宝されてるって言ってたし。

社会的に考えればどんな形であっても それぞれの役割がたぶんあるんじゃないかしらってアリを見て思いました。

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高鶴裕太 コウヅルユウタ
陶芸家
1991年生まれ
2013年横浜国立大学経済学部卒業
上野焼窯元 庚申窯3代目