2021/08/06 22:19

本日のBGM Talking Heads - Once in a Lifetime


画像3

アメリカンユートピアという映画を見まして、正確にはデイビッド・バーンのアメリカンユートピアというタイトル、デイビッド・バーンはトーキング・ヘッズというバンドで歌ってたインテリ風味の神経質っぽい人で、今は69歳で、その彼が2019年にブロードウェイで行ったショーがえらい好評だったので映像化したってゆう作品です。これが大変にいい映画でした。

何がいいってショーの演出として最高だってことで、舞台装置は上からビーズのれんみてえなのを右、奥、左の3面に垂らしてるだけで、衣装は全員グレーのスーツに裸足という ごくシンプルなもの。

画像6

画像2

大道具さんの出番が全くないような舞台設計ですが、このビーズのれんの使い方や、照明の当て方によって曲ごとに演出が変わりまくり、むしろ元々何もないからこそあらゆる見せ方に変化できるって感じで、その演出のアイデアが毎度楽しかったです。

画像3

画像4

シンプルな舞台を見応えのあるものとして成り立たせてたのは演者たちのパフォーマンスの高さで、最初はデイビッド バーンの声の衰えてなさ、ていうか若い頃より歌が上手くなっている!という驚きや、ダンサー2人の踊りでつかみはバッチリなんですけど、遅れて入ってくるバンドメンバーたちの演奏がすごい。


事前情報なしで見に行ったので そもそもライブを撮影したものなのか、そういう作りの映画なのかもわかってなかったので、最初彼らが演奏してるのを見ても、これも演出の一つで、曲に合わせて空弾きしてるのね、と思ってたんですけど、

映画が進むにつれて、これはほんまのステージの記録映像やんけ、そしてバンドの人たちの演奏もこれマジでやってるやんけと驚きまして、


画像7

ていうのもそれぞれの楽器には一切ケーブルが繋がってなくて、一見すると楽器だけ持ってきてるみたいに見えるのですが、よく見てみるとエレキギターとかちゃんとジャックが刺さってて、そのコードは背中側に回しておって、でもケーブルはなし、つまり無線機器で電波を飛ばしてスピーカーを鳴らしてたみたいです。

ドラムに関してはパーツがいっぱいあるから、パーカッションは5〜6人いたけど、それがまた層のあるリズムを作ってて素敵でした。

画像5

マイクがワイヤレスであるんだから楽器のやつもあるのねきっと、ってことで納得して見てましたが、後半MCでこのことに言及してる場面があって、やっぱり取材に来た記者とか舞台関係者とかから「あれは録音したやつに合わせて動いてるだけですよね?」と言われちゃうんですって。ライブに精通してる人ほどフェイクだって疑ってしまうみたいです。


だってワイヤレスをいいことにみんな演奏しながら動いて回って踊って歌ってってやるのに 無線でよくある遅延が一切なしで演奏と同時に音が鳴ってるから こんなことができるのか!?って思うのも無理からぬ話です。

それが実現できたのは新しく開発されたワイヤレス技術のおかげなんですって。なんとかっていうメーカーの。やはり技術の革新は表現の幅を広げますな。そしてこれを見てしまうと普通に組んであるバンドでの演奏ってちょっと物足りないものになってしまうんじゃないかしら。

画像8

最新の技術を使うことによってよりシンプルに、より原始的に、人間のパフォーマンスを浮き彫りにした形になっていて、

アメリカンユートピアは端的にいうとそういう作品で、それが一番の魅力だからこれは映画館で見ないことにはどうしようも無い映画だと思います。

ていうのもほぼミュージカルというかライブショーなわけだから現場感が非常に大事で、本当言えばブロードウェイで鑑賞するのが 今まさに事件を目撃してる的な感じで一番いいんだろうけど、映画館でも観客が一緒にいるし、大きな画面と大きな音でノンストップで進むから全然OK。だけどちっちゃい画面で1人で見たらちょっと白けちゃう映画だと思います。


現場感としては目の前に演者がいるブロードウェイとかの舞台が一番であると思いますが、鑑賞としては映画の方が優れてるんじゃないかしら。

ていうのも場面ごとに寄ったり引いたり、客席から見えない俯瞰からの映像とかビーズのれんの裏側からのショットとかが組み込まれてるから、客席の定視点で見るよりも遥かに面白く見れるんですね。編集ってやっぱり大きいわ。


アメリカンユートピアはライブ記録であり、ドキュメンタリーでもあり、でもやっぱり映画、という感じの作品でした。

やっぱり映画、っていうのは作者のメッセージが伴っているからですね。

この映画の監督はスパイク・リーで、デイビッド・バーンが作り上げた舞台の記録映像であるものの、スパイク・リーの思想とメッセージがしっかり詰まった作品に仕上がっていました。だってスパイク・リーが大人しく記録に徹するわけないですもの。

画像9


そのスパイク・リーのメッセージ性については置いておいて、今回思ったのが人に何かメッセージを伝えたければ、相手を感動させる必要があるということです。

トルストイによれば 芸術とは技芸ではなく 芸術家の感情の伝達そのものだそうですが、感情の伝達というのはなかなか難しいもので、感情の伝達を叶えるにはまず技芸で相手の警戒心をくにゃくにゃに ほぐさなくてはいけないんじゃないかしら。


どの人もそれぞれ自我を固めて生きてるわけで、関節と一緒で歳をとるごとに この自我は堅くなっていくから そうするとなかなか人は変わらない、自分自身が自分を変えたいと思う方向にも なかなか変われない

そんな相手に自分の感情を伝える、あるいは思想を共有するなんてことは生半可なことではなくて、というかこれほど難しいこともそうそう無いような気もします。


その難しいことと不可分なものが芸術であり、芸術家であって、芸術にはまずメッセージがあって、メッセージを運ぶための乗り物として それぞれの表現があるのではないかしら。

それが芸術と、利益先行に思えるエンターテイメントビジネスとの違いなのかもしれませんわ。

画像10


最後にデイビッド・バーンが歳をとったことによる魅力もでていまして、老いを伴うことで持ち得る「かわいさ」をゴリゴリに活用していました。

とぼけた感じのMCとか、ゆるいダンスとかが他のメンバーのキレのある動きを背景にして、むしろ一番目立っててちょっとずるい感じ。だけどこの歳でこの舞台を主演で作り上げたことはやっぱりすごくかっこいいと強く心を惹かれました。

画像11


高鶴裕太 コウヅルユウタ
陶芸家
1991年生まれ
2013年横浜国立大学経済学部卒業
上野焼窯元 庚申窯3代目